雨の日に思い出す
ふとした瞬間に突然昔の記憶がよみがえることがある。
今日もそんな瞬間が訪れた。
朝から雨が降っていて気持ちも今一つしゃんとしない、
外にでも出たら気分が変わるかと、傘をさして出かけた。
リュックを背負って身軽に歩こうとしたが、傘が小さくて濡れてしまう。
リュックを胸の方に抱くような形にして、小さな傘の中、身を縮めるようにして歩いた。
少し遠い本屋さんまで歩いて、気になる本や雑誌を気の向くまま読んだ。
小一時間もそうしていて、立ちっぱなしは少々疲れてきた。
買うほどの気持ちは湧かず、手ぶらで帰途へと。
気分はというと、それほど、上向いたわけではないけれど、出かけて外の空気を吸っただけでもよかったと思う。
そんな帰り道、なんだか、泣きたくなって、突然、思い出した。
子どもをベビーカーに乗せ、身重のわたしは傘をさして、徒歩10分のところの実家に向かって歩いていた。
おそらく出がけは、降っていなかったのか、小雨程度だったのだろう。
それでも雨予報ではあったのかもしれない。
雨だから、行くのをやめておこうというのはなかったようだ。
一人で子育てをしていると、特に午後も時間が過ぎると、急に心細さが増し、よく実家に足が向いた。
この時は、たどり着く前に、大降りになってきて、ベビーカーに乗せた子どもをかばうため、ベビーカーに傘をさしかけ、自分は濡れながら、実家へと急いでいた。
実家の近所の知り合いの方が、私を見つけて駆け寄ってくださり、「お母さんを呼んでくるから待っときなさい。」と言ってくださった。
心配して声をかけてくださったのは、ありがたい。
しかし、大雨の中で待つよりも、もう見えるところの実家へ急いだほうがいいので、「大丈夫です、大丈夫です」などと叫びながら、足を止めなかった。
そうはいっても、その知り合いの方も実家へと急いでくださって、母も飛び出てきたのかな。
そこは記憶がはっきりしない。
熱でも出たらお産ができなくなるから・・のような意味合いの心配する声を浴びながら、ストーブの前で、ずぶぬれになった服を全部着替えたのだった。
着替えを用意していたぐらいだったから、雨降りは覚悟の上だったのかもしれない。
それでも行きたくなるほど心細かったのだろう。
ストーブ?
身重だった、ことと、重ね合わせると、ストーブの時期ではないな。
秋の初め頃か。
ストーブの季節になったらストーブを出す、その場所で、ということだったか。
その時にお腹にいた子どもは、もう34だから、ずいぶん、昔の話だが、雨のせいか、心細さのせいか、ついさっき経験したようにまざまざと思い出した。
そのころの母は、数えてみると、55か56くらい。
今のわたしよりは若い。
そんな日に、娘が突然訪ねてきても、嫌な顔もせず、温かく迎えてくれた。
おそらく、夕飯も準備してくれたであろう。
記憶では夕方の出来事だから、泊まりもしただろう。
ベビーカーに乗っていた子どもは、お腹の中の子と、2歳半違いだから、2歳5か月かといったところだっただろう。
おそらくわたしが産休を取っていたときのことなような気がしてきた。
10月18日が予定日だったから、9月か10月ごろのこと、おそらく。
今、そのころの母を超える年齢になって、体力も衰えを感じるようになってきて、あらためて、母のしてくれたことを思う時、ありがたいことだったのだなぁ・・とつくづく思う。
心の中で、
そっと手を合わせる。
そして少し元気になる。
River of Dreams 作曲:妹尾 武
(まちがい多くて恐縮ですが、この曲が浮かんできました。)
2008.5.19録音
2023.4.28 訂正